機能神経学とは

神経のネットワーク

身体(からだ)のなかに網のように行き渡っている末梢神経、これに対して中枢神経系は脊髄・脳幹や小脳それに大脳など階層的な構成をなし、それぞれの役割を果たしています。何の不自由も感じずに元気に生活できるのは、この神経のネットワークでそれぞれが協調して働いてくれているからです。ところがこの神経ネットワークで何かしらの障害(不調和)が起きますと、さまざまな症状を訴えることになるのです。

機能神経学では、身体と脳の不調和によって引き起こされる症状(原因がわからない不定愁訴)を、脳と身体のネットワークの観点から調べてその原因を探ります。身体と脳の不調和を見いだし解決のめどを探るわけです。

体の痛みについて

たとえば、からだの痛み日頃の姿勢の悪さから疲労によって筋肉や関節が傷んでいることもあるでしょう。ところが慢性痛となりますと、原因がはっきりしないことも少なくありません。神経組織に十分な酸素や栄養が行き渡っていないことも多いのですが、さらに複雑な事情が絡んでいることも少なくないのです。それはからだの痛みが、脳の中で苦痛として表現していることがあるからです。そもそも痛みは末梢で感じているのではなく、脳のなかで起こる知覚です。脳が、ひいては心が、痛みを感じているのです。

脳や脊髄で何か不調和が生じていますと、痛みは思いがけないほど増悪されてしまいます(専門的になりますがアロデニィアと言います)。脳には大事な情報が優先して伝えられるようになっているのですが、そうした仕組みを妨げる障害が起きますと、雑音とも言えるような些細な情報が脳に不必要に伝わってしまうのです。ですから、機能神経学の観点からそうした仕組みを狂わしている問題を探り、調整できるようにはたらきかけるのです。

具体的な例で説明しますと、大きな手術の後に手術はうまくいきましたと医師に言われても、これまでなかった痛みが出てしまう事例もあります。そのためには、筋肉(筋紡錘)からの感覚神経など、太い神経線維からの信号が正しく脳に入ってゆくようなことを、治療方法として考えると良いわけです。

またさまざまな症状についての一般的な方法になりますが、眼球の動きやバランス感覚と利用して、小脳の働きを調整することも、とても大事な方法になります。人間の脳の最高の司令塔である前頭葉と小脳はとても密接な関係があり、不安や鬱など心の問題がここに反映します。

一般的な慢性痛についてみてみますと、足の捻挫など隠れた古傷があっての腰・下肢の慢性痛を引き起こしていることはまれではありません。背中や頸(くび)の痛みそれに頭痛・偏頭痛においても、隠れた不調和が潜んでいます。古傷や異常な筋(スジ)を弛めてあげることが効果的です。

機能神経学に基づいたアプローチ

機能神経学に基づいたアプローチは、原因のわからない身体の症状を、神経システムのさまざまなレベルまでたどって、その不調和を探るところにあります。その方法は、まず話をよく聴くことから始まります。そして、簡易的な脳神経検査を応用し、神経のさまざまなレベルでの働きを垣間見ます。たとえば眼は、神経ネットワークの働きを覗き込む窓になります。筋肉の緊張の状況をみたり、さまざまな方法で神経ネットワークでの不調和を推察することになるわけです。

触れてみることは、身体の営みを知るうえでもっとも重要です。たとえば、頭を触れていますと、頭の中の実にさまざまな触感を通して、脳の息づかいが伝わってきます。緊張のために張り詰めた左脳・右脳の質感の違いは比較的簡単に触診できます。さらに脳の深奥をもさぐることができます。脳のなかには地下水脈のような脳脊髄液で満たされた脳室というスペースがありますが、その揺らぎを通して、その周辺の脳組織の質感をさぐることもできるのです。こうした触診技術はなにか不思議なものですが、臨床的にはとても役立ちます。施術する者に伝わってくる感覚は主観的ですが、患者さんの身体と共感的でもあります。施術者になにかすっきりした感じが出てきますと、治療がうまくいっているという確信が、後日、患者さんの状態の変化で確認できます。
実は、ここで説明した「触れて知る方法」とは、身体呼吸療法の施術の一端でもあります。身体呼吸療法の説明もご覧ください。

※機能神経学はあくまでも患者さんの状態を把握するためのアプローチでありますので、診断ではありません。
※臨床における機能神経学は、カイロプラクティック・ドクターであるFrederick Carrickによって現象的に全貌が明らかにされました。現在、米国ではカイロプラクティック神経学の専門ドクターとしての認定試験があり、大場弘は日本人で二人目の学位保持者です。