前に古いブログで書いたことがあるのですが、『鼻の通り具合が左右で周期的に変わるサイクルがあり、それが対側大脳半球の活動と関連しているらしい』ことを思い出しました。その内容をレヴューしてみました。
左脳と右脳の活動が周期的に交代している
Int J Neurosci. 1993 Jun;70(3-4):285-98.
The ultradian rhythm of alternating cerebral hemispheric activity.
Shannahoff-Khalsa D.
Khalsa Foundation for Medical Science, Del Mar, California 92014-5708.
「大脳半球活動がultradian rhythm(生体リズムの周期が24時間未満)で交代している」という1993年の論文
大脳半球の活動リズムが、左脳と右脳の優位性が覚醒時に100分をピークに、90分から200分の範囲に集中して交替している。しかも驚くことに、その周期リズムは、鼻のサイクルと関係しているらしい。また、レム睡眠とノンレム睡眠のサイクルが大脳の側性と同期しているとも述べている。
Nasal Cycle?
鼻孔が左右交互により大きく開きぐあいが変わるサイクルがあるということです。鼻孔の開きぐあいよりも空気の流入出の測定でみると、左利きの人はより強く左の鼻の呼吸に偏り、右利きの人は右の鼻に呼吸が偏る傾向がみられるとあります。(Nostril dominance: differences in nasal airflow and preferred handedness, Laterality. 2005 )
目が醒めている状態で、鼻のサイクルと同期して大脳半球の活動リズムが1.5~3時間周期で交替している。そうした自然のリズムにおいてそれぞれの大脳半球のはたらきが、言語的な空間的な能率にとてもよく関連している。片側の鼻孔をおさえて他方の鼻孔だけで呼吸を強いると、反対側の大脳半球の認知的な覚醒が高まるという。(The effects of unilateral forced nostril breathing on cognition, Int J Neurosci. 1991)。
自閉症のこどもたちでは、まさに大脳半球の顕著な側性が認められているということです。利き手、利き目が左側で、鼻のサイクルもまた左が優位であるとする報告があります(Handedness, eyedness and nasal cycle in children with autism., Int J Dev Neurosci. 2007)。自閉症のこどもたちは、右脳に偏ったはたらきがあるということになるのでしょうか。ただ、サンプル数も37例とそんなに多くはありません。それに、偏った脳の側性によって自閉症が起きていると言っているわけではありません。自閉症には、人との交流と関係を築いていく能力に遅れがあるために、こうして右脳に偏った働き方となるのでしょう。
私の患者さんのエピソードから
女性でありながら、大学で政治を教えている方ですが、頸椎症と肩・背部に放散する痛みを訴えています。お腹の呼吸が硬くなっているために、身体内部の圧力が萎んだようになって、頸胸部が縮んでいるからですと話しましたら、どうしてお腹の呼吸ができないのでしょうと訊ねてきました。“どうしても固定した対象に集中してしまうところがあるからでしょう。左脳に偏る傾向が強いからです。一つの対象に集中するのではなく、もっと空間全体に注意がおよぶような感覚がだいじです。料理や生け花のような趣味を習慣的にしたり、自然の中で川の水の音とか、小鳥の声とかに耳を傾けるように、自然の中で瞑想することもいいのでは”とアドバイスをしたのです。
そうしましたら、若年性痴呆症で有名な築山先生に診察を受けたときにも同じようなことを言われたというのです。左右の脳組織の線維が段違いに左脳で発達しているMRI画像を見せられて、“あなたは自分のことに集中しすぎるところがあります”と言われて、やはり私と同じアドバイスをしてくれたと話してくれたというのです。
身体の正中で、きちんとした呼吸の力動性が生じていないと、中から上下に背骨を伸ばしてくれる力動性がなくなるために、姿勢は崩れて老化がはやくなるのです。姿勢をきちんと保てることと、お腹の呼吸はきわめて大事ですよと念を押したのですが・・・