2018年2月1日木曜日

聞こえない騒音

本来、耳では聴こえない音の低周波に悩まされいる人たちがいます。
通常、私たちは60デシベル以上の騒音にやかましいと感じ、それ以下ですとほとんど騒音としては感じることはないそうです。ところが、40デシベル以下の通常聞こえないはずの低周波音にひどく苦しんでいる人たちがいるというのです。

そのような患者さんの一人、Nさん(女性)が低周波音被害者であるとして来られました。
御年なんと90歳、歩行も動作もしっかりしているのですが、耳がとても遠いのです。耳元で話さないと聴こえないのです。耳の聴こえない人が騒音に悩んでいるというのも不思議な話ですが、得も言われず響いてくる音に、気がどうにかなりそうになるというのです。

とにかく、これを読んでくださいと持参された本がありました。そのときは寝違いで首が痛くて回らないということがありましたので、そのための施術をおこない、今度来られるときまで読んでおきますと約束し、汐見文隆医師の書かれた「左脳受容説:低周波音被害の謎を追う」を読まさせてもらいました。

汐見文隆医師は低周波音被害の方々に真摯に向き合い、その謎を追い求めた経緯と、行政への訴訟の過程が書かれています。

低周波音被害の謎、それは左脳受容にあると述べているのですが、角田忠信氏が書かれた「右脳と左脳‐その機能と文化の異質性‐」を根拠にしています。
角田忠信氏は“日本人は西洋人と異なり左脳で虫の音を聴く”ことを指摘されました。そこで汐見文隆医師は、本来は右脳で処理されるべき機械音や雑音が左脳にその低周波の振動が伝わるために低周波音被害が起こってしまうのではと考えるにいたったのです。

そこで私としては、Sさんのために何かができるか考えてみました。
右脳に低周波振動が伝わるように振動を誘導できれば、苦痛も和らぐのではと・・・
ウェバー聴力検査を応用すれば良いと閃きました。

左耳を塞いで鼓膜から伝わる振動をシャットアウトし、低周波の振動が左側から優位に骨伝導として右脳に伝わるようにしたら良いと思いついたのです。
Sさんに説明しましたら、90歳にあっても驚くほどすぐに理解してくれました。

次に来られたのは数か月後でした。
寝るときにゼル状の冷却用マットで左耳を塞いでいると、苦痛が和らぐことが実感できていると話してくれました。少しでも軽減できていることに安堵し、汐見文隆医師に感謝を込めて報告させていただくことにしました。


正中をテーマに

こんど仲間内で勉強会をしたいという提案があって、私には座長のようなことをやってもらえればということでした(日程は調整中で、5月から6月とのこと)。自分で勉強していることを人に伝えたいという思いもあり、発表者の一人として参加させてもらうことにして、提示されたテーマについて考え始めました。

武術でも正中線ということが重要視されますが、正中をまっすぐな硬直したラインと考えてしまうと、柔軟な動きをつくりだすことができなくなります。それじゃ正中線といわれるものは何かということになるのですが、私は呼吸軸として考えてみたいのですが、このことについては身体呼吸道のブログの方でみてみたいと思います。ここでは、身体の正中について機能神経学的に考えてみようかと思います。


視覚的な正中
正中というと視覚的なイメージとして最初に頭に浮かんできます。視覚的に真ん中をどのように認識しているのか先ず気になります。

視覚系のしくみを観ますと、左視野と右視野が重なって中央の視野になっていますが、これは網膜の中心窩から後頭極のV1(第一次視覚野)への投射となります。目の前の人物像がイメージとしてどのように写し出されるのか、実際はニューロンの活動なのでイメージというのは正しくはないのですが分かりやすく比喩的に言いますと、左右の半身が中央で分断され左右/上下に逆転したかたちに分かれます。注視された中央で左右が分断されて、右視野と左視野が、左右の大脳半球でそれぞれ分かれて処理されます。

人物の顔を注視しているとすると、顔の正中は上の図の垂直子午線と示される一次視覚野V1と二次視覚野V2との境の神経細胞に投射されるということらしいのです(岩村 吉晃氏)。
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2001dir/n2448dir/n2448_01.htm


視覚的には対象物の正中ということになりますが、自分の身体の正中となると事情は変わってきます。何をするにしても自分自身の身体と姿勢が、ほとんど意識されずに頭の中で把握されていることは自明です。自分自身の主観的な正中と、対象物の正中の認識のしかたが当然のことながら異なっています。自己の正中の認識には、視覚系とは別のルートからの感覚情報の統合が必要です。身体感覚としてのイメージには、体性感覚、固有感覚、それに前庭感覚の統合が必要になってくるのです。


正中は左右の統合から生まれる?
生まれて間もない幼児は、左右の手足の動きはバラバラで、左半身右半身が一つになっていない印象があります。左と右が一つに統合されてはじめて身体が目的にかなった動きができてくることになります。たとえば両手指で何か細かいものを扱う時には、両手が正中線のすぐ前にきますから、左右の大脳半球にある2つの独立した手指の領域は脳梁を介して連絡する必要があります。したがって、左右の四肢がたがいに協調して複合された運動には中心となるものが想定され、こうした複数の中心が身体正中に沿って配列することが考えられます。そうした複数の中心が成すラインが、正中線として想定できるのではないでしょうか。したがって正中線は立位の時の直線だけとは言えず、身体のさまざまな動きにおいて柔軟に曲線を描くこともあるわけです。

左右の半身が正中を結び目としてどのように脳内で一つに融合され認識されてゆくのかと考えてみると、とんでもなく不思議な脳の世界への入り込んでゆく気がします。

はたしてどのようなプロセスをたどるのか、また続きを考えてゆきます。

ご挨拶|マニュアルメディスンとは

米国の代替医療から発展してきたカイロプラクティックやオステオパシーにならい、手技で健康回復をはかる徒手療法をより医学的な基礎の裏付けされたかたちで発展させたいと願い、マニュアルメディスンという名称のもと30数年にわたって出版やセミナーなど啓蒙活動をおこなってきています。

もともと私はカイロプラクティックの大学を卒業していますので、カイロプラクティック神経学から発展してきた機能神経学を卒後教育の課題として毎年受講しています。日々進歩し続けているニューロサイエンスをもとに複雑な神経ネットワークのしくみを理解し、臨床に役立つ知恵を学んでいるところです。

こうして学んだm知恵を共有し徒手療法の臨床にヒントになることがあれば、私の患者さんだけでなく、ひろく多くの方々の役に立つものと考えています。
ここでは日々の気づきを書き綴ってゆきたいと思っています。