2018年7月6日金曜日

ドーパミン系は心と脳の架け橋か?

ノーマン・ドイジ著「脳はいかに治癒をもたらすか」は、機能神経学の臨床を考えるにあたってたいへん有益な示唆を含んでいて、また読み返しました。このなかでパーキンソン病の症状を歩行によって克服した事例があります。そこで考えさせられたのはドーパミン系の生物学的な意味です。
ドーパミン系というと「報酬系」、「動機づけ」、「やる気ホルモン」といったキーワードが連想されます。
ドーパミン系は中脳の黒質から、前頭葉、大脳辺縁系、大脳基底核線条体へとひろく脳に投射しているシステムであり、その影響は広範囲に及び、実にさまざまな臨床症状の因になっています。たとえば、パーキンソン病は身体的な運動障害をいう症状があらわれる代表的な疾患ですが、そのうちには「認知的」あるいは「心的」な基盤があり、身体的であるとともに心的な障害であるとあります。これは、著名な脳神経科学者達の証言をもとにした記載です(150p)。
なにごとも、動作を起こそうとする心のなかの動機があってのことですが、なにげない習慣的な行動にでさえ、それに必要なエネルギーの割り当てがなされ、それに見合った価値をドーパミンという貨幣で付与されていると理解しました。心のやる気がドーパミンという報酬で行動を引き起こしていると考えても不思議ではないのです。
それでは、やる気を起こす心のはたらきはどこから湧いてくるのかと考えてみますと、その人のうちにあるだけでなく、周囲の人と環境とによって引き起こされていることがわかります。脳の中で生じる一つに統合されたはたらきを心と考えてみますと、ドーパミンを放出する中脳レベルにも作用する基盤となっていることがわかります。このように考えてみると、ドーパミン系は心と脳の架け橋のようなもの、そんな印象がわいてくるのです。
心的努力による歩行からパーキンソン病という身体の障害を克服できたという事例が語っていることは、心のはたらきが脳の神経組織を変えることができるという神経可塑的な可能性の一例でした。