2019年9月6日金曜日

ドーパミン系と大脳基底核

 大脳基底核はいくつもの核から構成されていますが、そのなかで入れ子nestingのような階層性があります。この複合された核のグループに入力系として大脳皮質とドーパミン系があり、視床に対して抑制性の出力となるネットワークがあるわけです。階層的な大脳基底核のなかには、情報が伝わるルートに3つの経路があります。ハイパー直接経路・直接経路・間接経路にそった情報処理の流れがあります。

 大脳基底核の役割を喩えたイメージがあります。それはスタートラインにアスリートが並び、“位置について”“ヨーイ・ドン”の合図ではじまる運動競技です。なにごとも目的に適う運動開始の準備と実行がありますが、そのためには先ず、状況に応じた適した行動に移るために、なにが必要な運動とすべきか大脳皮質のさまざまな領域から情報が送られてきます。それには非常に多くの運動パターンの可能性があるわけですが、ドーパミン系はもっとも適したパターンをチューニングしてくれます(ここが最新の見解です!)。そして入れ子のような階層性からさまざまな運動パターンが振り分けられ、最終的に淡蒼球内節に状況に適した活動パターンが収束されます。この過程で、実行に移される運動と、その遂行にとって不必要な運動を除外する振り分けが起きていることになります。直接経路は運動遂行に関わる経路となり、間接経路は不必要な運動を抑制する経路ということになるでしょう。それではハイパー直接路は?となると、これは“ヨーイ”の合図のようなもので、すべての動きを止めて、スタートに向けて内部イメージに集中しているようなものでしょう。ハイパー直接路は、大脳皮質から視床下核(これも大脳基底核のなかまに入ります)を介して出力部である淡蒼球内節に入り視床に対してより強力に抑制をかけます。

 ドーパミン系は報酬系とも言われ、“快”や報酬の大きい運動や行為を強化する運動学習につながります。ドーパミン系と運動機能との関係は、パーキンソン病にみることができます。ドーパミンは直接路を促進し、間接路を抑制しますので、中脳黒質からのドーパミン投射が少なくなると、運動を開始したくもいっこうに進まずまごついてしまいます。しかも、間接路が亢進するため、体が硬直し思うように動きません。なんとか動き出すことができても、とても目的に適った動きとは言えないのです。きちんとした運動パターンはなくなっていないのに、それを円滑に始めて遂行することが困難になっているのです。

 大脳基底核は単に運動制御に関わるわけでもありません。大脳辺縁系がドーパミン系と皮質-大脳基底核と深いつながりがありますので、心の動きと習慣的な行為のコントロールにも関わってきます。偏桃体からの出力先の一つに大脳基底核の尾状核・被殻(ひかく)があります。 1例として、強迫性障害があります。強迫性障害では、自分でもつまらないことだとわかっていても、そのことが頭から離れない、わかっていながら何度も同じ確認をくりかえしてしまう。手の汚れを過剰に気にして手を洗わずにいられない。戸締まり、ガス栓、電気器具の消し忘れを何度も確認してしまうなど、さまざまな表れ方をします。

 こうした症状の背景には極端な不安があり、前頭前野からの抑制にも関わらず、過剰な観念や行為があらわれてしまいます。機能的脳画像研究により前頭葉や基底核領域に異常な活動が認められています。また、強迫性障害の症状は、視床下核という大脳基底核の一部を刺激することで改善されることがわかり、視床下核における神経の発火に関連していることも報告されています。視床下核は大脳基底核の出力部である淡蒼球内節を亢進させ、視床から皮質への入力を強力に抑制するはたらきがあります。淡蒼球内節は大脳基底核の最終的な出力パターンが収束してきますので、本来抑制されるべきなにかしらの習慣的な行動パターンが抑制されず漏れてしまうのかもしれません。

 こうした障害をいかに抑え、生活の質をより高めることができるのか、機能神経学においても大事なテーマになっています。